
歯の治療で「苦手」と多く声をいただくもののひとつが、詰め物や被せ物、矯正装置をつくるための「型取り(印象採得)」です。
「歯の型取りで、いつもオエッと気持ち悪くなってしまう」
「口の中で感じる、粘土のような材料がどうしても苦手」
「入れた被せ物が、しっくりこない気がしている」
粘土のような材料を盛ったトレーを口に入れ、固まるまで数分間じっと待つ。
この際、喉の奥がムズムズして不快になったり、味やにおいが苦手に感じたりして、歯医者そのものを遠ざける理由にもなっていました。
今回ご紹介する「口腔内スキャナー(光学印象)」では、従来の型取りが苦手という方の負担を大きく減らすことができます。
この記事では、口腔内スキャナーでできることから、精度・費用・保険の範囲まで、患者様が「自分で納得して選べる」ための情報をまとめました。
みなさまの歯科治療がより快適になるための参考になりましたら幸いです。
1.口腔内スキャナーの基礎知識
口腔内スキャナー(IOS:Intraoral Scanner)とは、小型の高性能カメラを口の中に入れ、歯並びを立体的に読み取ってデジタルの3Dデータに変換する機器です。
カメラを歯に沿って動かすだけで、数分ほどでスキャンが完了します。
粘土のような材料を使わないため、不快に感じる要素を大きく減らすことができます。
「型取り」の常識が大きく変わる
従来の型取りは、材料が固まるまで口を大きく開け続ける必要があり、患者さまにも一定の負担がかかっていました。
口腔内スキャナーは、カメラで歯の形を読み取る非接触の方法です。
喉の奥を物理的に圧迫しないため、吐き気(嘔吐反射)が強い方でも、不快感をぐっと抑えて型取りができます。
また、材料が喉に流れ込む心配がないため、誤って飲み込んでしまう誤嚥のリスクもありません。
お口の型取りに不安があるご高齢の方や、じっとしているのが苦手なお子様にも、安全に行いやすい方法です。
途中で「ひと休み」できるのも大きな利点です。
口腔内スキャンは、状況に応じて一時停止できるのも大きな特徴です。呼吸を整えたり唾液を飲み込んだりしたあと、停止前の続きからすぐに再開できます。材料が固まるのを待つ時間がなくなるため、治療イスに座っている時間そのものが短くなります。
2.口腔内スキャナーの3つのメリット
口腔内スキャナーのメリットは、「型取りが楽になる」だけではありません。
ここでは、患者様にとって特に大きな3つのメリットをご紹介します。
型取りの「つらさ」から解放される
先ほどお伝えした通り、口腔内スキャナーは材料を口に入れて硬化を待つ必要がありません。
吐き気、味やにおいの不快感、トレーで歯ぐきが押される痛みなど、型取りの負担をまとめて解消できます。
「型取りが苦手で歯医者から遠のいていた」という方こそ、恩恵を実感しやすい技術です。
材料の歪みリスクがほぼゼロになる
詰め物・被せ物の良し悪しは、「どれだけ精密に歯に合っているか」で決まります。
歯との間にわずかでも隙間があると、そこから細菌が入り込み、内側で再び虫歯(二次虫歯)が進んでしまうためです。
従来の型取りでは、材料が固まる過程で、わずかに縮んだり歪んだりするリスクがありました。
さらに、型に石膏を流し込み、技工士が手作業で仕上げる工程もあり、小さな誤差が積み重なることがあります。
口腔内スキャナーは、この「材料の歪み」がほぼ発生しません。
口の中をスキャンしたデータがそのまま設計・製作に引き継げるため、誤差が生じにくく、より適合性の高い詰め物・被せ物を実現できます。
そして、精度の高い詰め物・被せ物を用いることにより、虫歯を防ぎ、治療した歯を長持ちさせることにつながります。
自分の口の中を実際に確認できる
これまでの歯科治療では、「自分の口の中で何が起きているのか」を目で見ることが難しいのが実情でした。
口腔内スキャナーで読み取ったデータは、その場でモニターに高精細な3D画像として映し出されます。
自分の歯を360度あらゆる角度から確認できるため、より透明性の高い治療が可能です。
歯科医師の口頭の説明だけでなく、「映像」で理解できるため、なぜその治療が必要なのかが直感的に伝わります。
この「見える化」はとても大切なことで、十分な説明を受け、自分で納得したうえで治療を選択できるようになります。
このように、自らの意思で治療方法を選択・同意することを「インフォームド・コンセント」といいます。
当院では、患者様に症状や治療内容を正しくご理解いただけるよう注力しております。
「映像」を通して分かりやすくお口の中の状態を把握していただけるのも、口腔内スキャナーの大きなメリットのひとつです。
さらに、この「見える化」は、治療だけでなく「予防」においても大きな効果があります。
当院の具体的な取り組みとして、予防ケアにおいて、専用の液で歯の汚れ(プラーク)を染め出し、「どこに、どれくらいの汚れがついているか」を可視化した状態で口腔内スキャンを行います。
このデータはスマートフォンアプリを通じて患者様にお渡ししており、ご自宅での毎日の歯みがきの際にいつでも見返すことができます。
「自分の磨き残しやすいクセ」を、ご自身のスマホから立体的な3D画像で確認しながらブラッシングできるため、セルフケアの質が格段に向上します。
3.型取りの精度は、どれくらい違う?
「型取りの精度が高い」と言っても、実際にどれくらいの差があるのでしょうか。
ここでは、従来の型取りとの違いを具体的な数値でご紹介いたします。
以下は、型取りの方法別の比較表です。
| 型取りの方法 | 材料の歪み | 精度の目安 | 主な特徴と注意点 |
|---|---|---|---|
| アルジネート印象 | 約2.8% | 数百μm単位の変形 | 時間とともに乾燥して変形しやすく、精密な補綴には不向き |
| 寒天・アルジネート連合印象 | 約1.5% | 百数十μm単位の変形 | 材料の剥がれ・ちぎれ、石膏を流す際の変形リスク |
| シリコンゴム印象 | 約0.3% | 約54〜60μm | 高精度だが、固まるまでの待ち時間(5〜7分)が長い |
| デジタル光学印象(口腔内スキャナー) | 0% (材料の歪みなし) |
1本の歯:約7μm 全体:約14μm |
唾液・出血による反射に注意。歯ぐきの深い部分は工夫が必要 |
※μm=1000分の1ミリ
アルジネート・寒天・シリコンは、いずれも「材料を口に入れて固める」従来の型取りです。
大まかにまとめると、次のようになります。
- アルジネート印象
海藻由来のピンク色の材料を使う、最も一般的な型取り。手軽ですが、時間が経つと変形しやすく、精密さが求められる被せ物には不向きです。 - 寒天・アルジネート連合印象
アルジネートに寒天を組み合わせて精度を高めた型取り。詰め物・被せ物づくりなどに使われます。 - シリコンゴム印象
ゴム状のシリコン材料を使う、従来の中では最も精密な型取り。ただし固まるまで数分間、口を開けて待つ必要があります。
デジタル光学印象は、材料そのものを使わないため歪みが生じず、待ち時間もありません。
そのため、より歯にぴったり合う、そして長持ちしやすい被せ物を実現できます。
デジタルにも「得意・不得意」があります。
口腔内スキャナーは光で形を読み取るため、唾液や出血で歯の表面が濡れていると光が乱反射してしまい、スキャンがうまくいかないことがあります。また、歯ぐきの溝の奥深く(歯肉縁下)などの光が届きにくい場所では、スキャナー単体では十分な精度が出にくい場合もあります。
そのため当院では、確かなスキャン技術はもちろんのこと、お口の状態や部位によっては無理にデジタルだけに頼ることはしません。歯ぐきの奥深くを型取りする際は、ミクロン単位の高い再現性を持つ「シリコン印象」や「従来の型取り(アルジネート・寒天連合印象)」を柔軟に使い分けています。
デジタルの強みと従来の精密な型取りの強み、双方を正しく理解し最適な方法を選択することこそが、より精密で長持ちする治療につながります。
4.口腔内スキャナーが活躍する治療場面
口腔内スキャナーの活用場面は、「型取り」に限りません。
読み取った3Dデータは、さまざまな治療の精度と安全性を高めてくれます。
ここでは、代表的な4つの治療場面をご紹介します。
インプラント治療
インプラントは、失った歯の代わりに、顎の骨へ人工の歯根を埋め込む治療です。
骨の中には無数の神経や血管が通っていて、それらを避けながら、最適な位置・角度・深さに収める非常に高い精密さが求められる治療です。
ここで力を発揮するのが、口腔内スキャナーと歯科用CT(歯や骨を立体的に撮影する装置)の組み合わせです。
スキャナーが読み取った歯並びのデータに、CTが捉えた骨の内部のデータを重ね合わせます。
そうすることで、手術の前に、画面上で「どこに、どの角度で、どの深さまで埋めるか」を、細部まで検討できます。
この設計をそのまま形にしたものが「サージカルガイド」です。
3Dプリンターで出力する、患者様専用のマウスピース型の装置で、狙った位置に、あらかじめ穴が開いています。
手術では、これをお口に装着し、穴に沿ってドリルを進めていきます。
これを使用することで、設計から大きく外れないため、神経や血管を傷つけるリスクを大きく減らすことができます。
矯正治療
口腔内スキャナーは、矯正治療においても真価を発揮します。
初診時にお口の中をスキャンしておくだけで、AIによって「今の歯並び」と「矯正後の予想の歯並び」を、その場で3D画像で見比べられます。
「歯を抜いた場合」「抜かない場合」の違いも比較でき、疑問や不安をその場で解消したうえで、納得して治療をスタートできます。
予防・定期メンテナンス
これまで歯のケアの効果は、患者様にとって実感しにくい部分がありました。
鏡で見せられても、奥歯の裏側や細かな段差までは分かりにくいためです。
口腔内スキャナーを使用すれば、拡大したカラー画像で磨き残しや初期の虫歯、歯ぐきの軽い腫れを視覚的に理解できます。
さらに過去のデータと重ね合わせれば、歯のすり減りや歯ぐきの下がり具合、歯並びのわずかな動きをミリ単位で追跡できます。
自分の歯の変化が「数字」で見えることで、セルフケアや定期通院の効果が分かりやすくなり、歯のケアへ意識を向けやすくなります。
被せ物・詰め物(CAD/CAM治療)
スキャンした精密なデータをそのまま設計・製作に使うことで、適合の良い被せ物や詰め物を効率よくつくれます。
院内に加工機がある場合は、その日のうちに修復まで完了できるケースもあります。
5.費用と保険について
口腔内スキャナーは最新機器にカテゴライズされるため、「治療費が高額なのでは?」と心配される方もいるかもしれません。
ここでは、口腔内スキャナーが保険適用となる範囲と、日本の医療制度の動きを解説します。
保険が適用される範囲
日本の健康保険制度は「最低限の機能回復」を目的としているため、最新機器である口腔内スキャナーは保険の対象外でした。
しかし、国が歯科医療のデジタル化を推進するなかで、状況は大きく変わりつつあります。
2024年6月には、指定の基準を満たした歯科医院において、白い詰め物(CAD/CAMインレー)の型取りに口腔内スキャナーを保険適用できるようになりました。
さらに2026年6月の制度改定では、白い被せ物(CAD/CAM冠)への適用拡大や奥歯の条件緩和が進み、保険でデジタル治療を選べる範囲が大きく広がっています。
こうした国の後押しもあり、現在では保険診療においても口腔内スキャナーの活用が進んでおり、特別な治療ではなく「あたりまえの選択肢」となりつつあります。
なぜ、「10件に1件」ほどしか普及していないのか
これだけメリットがあるのに、日本の歯科医院での口腔内スキャナーの導入率は、現在でも全体の10%以下にとどまっています。
すでに導入率が半数近くに達しているアメリカなどと比べると、日本はまだ導入の初期段階にあります。
普及が進まない理由は、大きく2つあります。
| ハードル | 具体的な内容 |
|---|---|
| 高額な費用 | 本体価格はエントリー機でも100万円台、高性能機では400〜800万円を超えます。さらに、毎年の更新料やソフトのライセンス料、使い捨てチップなどの費用が継続的にかかります。 |
| 技術の習得 | 機器の定期的な調整(校正)、撮影のコツ、データの取り扱いなど、スタッフ全員に新しいスキルが求められます。安定して高精度なデータを取れるようになるには、相応のトレーニングが必要です。 |
口腔内スキャナーによる型取りは、すべての歯科医院でも受けられるものではありません。
従来の型取りが苦手でデジタルでの型取りを希望される場合は、通院を検討している医院が対応しているかを、事前に確認してみるとよいでしょう。
医療費控除について
口腔内スキャナーそのものに費用がかかるわけではありませんが、自費で受けるインプラントや矯正などの治療は、医療費控除の対象になります。
医療費控除とは、1年間(1〜12月)にご自身やご家族のために支払った医療費が一定額を超えた場合に、超過分に応じて所得税が軽減される制度です。
年間10万円(または所得の5%)を超えた部分について、確定申告で還付を受けられます。通院の交通費も対象になるため、領収書は保管しておきましょう。
※払い戻される還付金は、指定したご本人の銀行口座に振り込まれます。
※還付金は目安となっておりますので、実際には誤差が生じます。
6.口腔内スキャナーについてよくあるご質問
ここからは、口腔内スキャナーについて、多くご質問いただくものの一部を取り上げて、お答えさせていただきます。
Q1.型取りは本当に痛くないのですか?
口腔内スキャナーはカメラで歯を撮影するだけなので、材料で歯ぐきを圧迫することがありません。
また、喉の奥を刺激しないため、吐き気が起こりにくく、「思ったより楽で痛みもなかった」という感想を多くいただきます。
Q2.スキャンにはどれくらい時間がかかりますか?
お口の状態にもよりますが、数分程度で終わることがほとんどです。
材料が固まるのを待つ時間がない分、治療イスに座っている時間そのものが短くなります。途中で一時停止して呼吸を整えることもできます。
Q3.デジタルの型取りだと精度は落ちませんか?
むしろ、材料の歪みが生じない分、精度が高まりやすい方法です。
ただし、唾液や出血で濡れていると読み取りにくくなるため、しっかり乾いた状態を保つなど、歯科医師の丁寧な処置があってこそ真価が発揮されます。
Q4.どんな治療に使えますか?
詰め物・被せ物の作製はもちろん、インプラント手術の計画、矯正治療のシミュレーション、予防歯科での経過観察まで、幅広く活用できます。
ご自身の口の中を画面で確認しながら説明を受けられるのも特徴です。
7.TK海浜幕張デンタルクリニックの取り組み
当院では、「患者様への負担を減らし、より精密で長持ちする治療をお届けしたい」という思いから、デジタル機器を積極的に取り入れています。
最後に、当院が大切にしている取り組みをご紹介いたします。
患者様の負担を減らすデジタル環境
従来の型取りが苦手な方にも安心して治療を受けていただけるよう、口腔内スキャナーをはじめとするデジタル機器を活用しています。
吐き気や不快感をできる限り抑え、快適な型取りをご提供いたします。
精密な診断のための設備
より精度の高い治療には、精密な診断が欠かせません。
当院では歯科用CTを完備し、顎の骨や神経、血管まで立体的に把握します。
口腔内スキャナーのデータと組み合わせることで、インプラントや補綴治療の精度をさらに高めています。
「見て納得できる」インフォームド・コンセント
スキャンした3D画像をモニターでご覧いただきながら、今のお口の状態や治療の必要性を丁寧にご説明します。
ご自身の目で確認し、納得したうえで治療を選んでいただくことを大切にしています。
セカンドオピニオンのご案内
今の治療方針に少しでも迷いや不安がある方は、どうぞお気軽にお越しください。当院では、お口の状態を画像で一緒にご覧いただきながら、なぜその診断になるのかを丁寧にお伝えします。セカンドオピニオンは、他院の判断を否定するための場所ではありません。患者様が安心して治療を受けるための「もうひとつの視点」をご提供する場です。現在の検査結果をお持ちのうえ、いつでもご相談ください。
この記事の監修・編集
監修/宮間 豪士
TK海浜幕張デンタルクリニック 院長
神奈川歯科大学を卒業後、日本歯科大学にて臨床研修を修了。
横浜市内の歯科医院で分院長を務め、医療法人社団優英会の理事として地域歯科医療に従事。
歯内療法(根管治療)、歯周病を専門領域とし、マイクロスコープを用いた精密な診査・治療を重視。
「患者さまが一生涯ご自身の歯で噛めること」を理念に掲げ、地元である海浜幕張にてTK海浜幕張デンタルクリニックを開業。
歯を「残す」だけでなく「しっかり噛める状態」で守る、長期的視点に立った歯科医療を提供している。
経歴
- 神奈川歯科大学 卒業
- 日本歯科大学 臨床研修 修了
- 横浜市内歯科医院 分院長
- 医療法人社団 優英会 理事
所属学会
- 日本歯内療法学会
- 日本臨床歯周病学会
- 日本歯周病学会
研修歴
- 石井歯内療法研修会
- 船越歯周病研修会
- Kerr ダイレクトボンディングコース
- Straumann インプラントベーシックコース
